検診4回目

会社に電話してすぐに病院に向かった。

順番待ちの時間がひときわ長く感じられた。

問診の際に出血が増えていることを知らせて内診台へ。

 

 

そして経膣エコーで中の様子を見るも医師は口が重かった。

「胎芽の心拍が確認できません。

 また大きさも9mm少々と日にちのわりに成長しておらず、

 形も崩れ始めています。

 残念ながら子宮内で亡くなったと思われます」

やっと口を開いたかと思えば悲しい知らせだった。

確かに白黒画像に映し出された胎のうのなかに浮かぶ

白い半透明の胎芽は全体的にゆらゆら揺れているだけで、

前回・前々回に元気に動いていた心臓の部分も全く動きが確認できなかった。

「このままでしたらそのうち自然に出てくることも考えられますが、

 全てきれいに出てくるとは限らないので手術しましょう。

 なるべく早めがいいでしょう」

このときは静かに事実を受け止めている、と自分では思っていた。

医師の説明や渡された同意書の内容の説明、その後の日程のこと、

当日の手術に必要だからということで血液検査と心電図、

『この日の午前に予約しておくが、それより前に出血があれば病院に電話を』

という看護師の説明も、冷静に落ち着いて聞いて、会計もすませ病院を出た。

受診前は病院から会社に行くつもりだったが、気がついたら帰宅していた。

家に帰りMacの前に腰を下ろした瞬間、自分が落ち込んでいることに気づいた。

自分を責めてもどうしようもないことと理解はできても

気持ちは折り合いがつかない。

ショックだ。

会いたかった。

1回目のときのように自分のなかで当たり前のように大きくなって出てきて、

息子がお兄ちゃんになるのを想像してにやにやしたことだってあった。

それが無になったという事実は自分が思っている以上に受け止めるのが困難だった。

会社に電話しなきゃ、と思ったがその前にまずツレに電話した。

(ツレはひとりで仕事をしていて、昼間の電話も差し障りないのです)

まず彼に伝えなければとこれもまた直感で、ただ、電話で報告する相手じゃないし

案件じゃないという思いもあった。

「話があって...できれば、これから会えないでしょうか」

「何かあった?」

「中のひと、だめだった。心拍が止まってる、と...」

その後の会話はあまり覚えていない。ツレの声を聞いたら急に泣けてきた。

電話の向こうのツレはひどく慌てる様子もなく、

事実を冷静に受け止めてくれているように聞こえたので気が緩んだ。

会社にも報告しないといけないので、到着場所と時刻を確認し、一旦電話を切った。

 

会社への電話は、かける前に『業務連絡』と何度も念じて

なんとか泣くこともなく報告できた。

数日後に手術を受ける必要があり、有給休暇をいただきたいことと

手術の1週間後に再度受診の必要があること、

また手術前の急な大量出血の可能性やそれ以上に動揺が大きく

精神的に困難であることを説明し、手術当日までの欠勤についても許可をいただいた。

いろいろと上司に言葉をかけていただいたがこれもまたほとんど覚えていない。

ただ、迷惑をかけてしまったと何度も詫びたことは覚えている。

 

電話を済ませ、少しの間空っぽになった。

何をしたか覚えてない。

ただ、数分、ひょっとしたら数十分、何も考えてなかったし何もしなかった。

ふとツレとの約束を思い出し慌てて家を出た。